「何があった」

「………へ?」



意外な事に、投げ掛けられた言葉は思っていたよりも全然優しくて。


そっと顔を上げてみれば、さっきより幾分か和らいだ表情の十夜があたしを見下ろしていた。


その表情にホッと心の中で安堵の溜め息をつく。



「いや、ちょっと階段から落ちちゃって」



十夜の声色にすっかり安心しきったあたしは気を緩め、無表情の十夜にエヘッと笑い掛けた。


そんなあたしを見た十夜は、ハァ、と深い溜め息をつくと「怪我は?」と呆れた声色で問いかけてきた。



「……脳震盪だけ」

「他は?」

「う、ううん、ないよ!」



お尻と背中。いや、全身痛いです。……なんて、口が裂けても言えない。



「本当か?」

「うん」



ごめんなさい。嘘です。


だって正直に言ったら怒られそうなんだもん。……煌に。


十夜にバレるという事は煌にバレるという事で。


あの小言をまた言われるのかと思うと頭が痛くなる。



「どうした。頭が痛いのか?」



俯いてこめかみを押しているあたしを見て、どうやら頭が痛いと勘違いしたらしい。


スッと伸びてきた十夜の右手があたしの後頭部をそっと優しく撫でてくれる。



い、意外……。頭、撫でてくれるんだ。


無愛想な十夜がまさか頭を撫でてくれるなんて思ってもいなくて、ぽかんと口が開いてしまった。