手術から数日経って、リハビリ中にやっとあの人はオレの元に戻ってきた。
返してもらった携帯。
着信履歴を確認しながら、溜め息が口からディスプレイまでを往復する。
こんなに、かけてきてたんだな…
「私も自分の仕事で忙しかったから…。来るのが遅くなってごめんなさいね。でも、その着信の相手にかけるより、まずはお家の方に連絡しないとダメよ?きっと心配してるから」
「…………」
心配なんて…。
そう思ったけど、オレは言う通りに最初は自分の家にかけた。
耳に届いたのは、たまにしか聞いていなかった省吾の父親の声。
「あぁ、圭吾か…。良かったな、自由になれて。お前は好き勝手できてうらやましいよ。まぁ、そっちでゆっくりしてくればいいけど、祖父さんには連絡しておけよ。じゃあな」
「あ、父さ……」
ツーッ、ツーッ…
分かっていても、悔しさと寂しさが胸の奥をぐっと苦しめた。
携帯を持つ手が震えて、力の入らない足が体全体を激しく揺らして。
それからオレは、祖父ちゃんに連絡を入れたんだ。
優しい言葉をかけてくれるわけじゃなかったけど、たぶん両親よりはオレのことを考えてくれてたと思う祖父ちゃん。
オレがしばらく学校をさぼってた間も、オレのその後に影響がないようにいろんなことを調整してくれて。
しかも最終的には、学校に来るよりピアノの腕を上げた方がいいからって…
「祖父ちゃん。圭吾だけど、手術は無事に終わって…」
「圭吾、お前はそのままそっちで暮らしなさい」
え……?
一瞬では何も理解できなかった。
ただ祖父ちゃんは、繰り返すようにオレに言った。
「お前に、帰ってくる意味はない」