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消灯時間が過ぎた病室。



この時間なら、
会えるかもしれない…。

そう思ったけど、そこにはまだ省吾の姿があった。



「省吾…」



そう呼ぶ声は、とても普通の状態で聞いていられるものじゃない。

早くなる鼓動だって、落ち着けられる方法すら見つからなかった。



なにもかも忘れてる野崎。

最初から省吾のものだった野崎。



オレのするべきことは何なのか、迷うほどに目の前の光景から視線をそらしたくなる。

省吾を見つめる野崎の表情が

野崎に触れる省吾の手が

オレの感情をたまらなく揺さぶって。



「く、そっ……」



拳を握りしめたまま戻った玄関までの廊下は、全身に伝わる動揺を強調させるように静かだった。



秋の近づく澄んだ夜空。

小さな光の灯る病室の窓を見上げながら、オレはどうしようもなくなった現実を受け止めることに必死になっていた。





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