キレイに整えられた芝生の上を、転びそうになりながら走ってきた女の子。
誰…?
「陽奈!私のこと分かる!?春乃だよ!誰も連絡くれないんだもん、来るの遅くなったじゃん!」
「春乃……ちゃん」
「あー、忘れちゃってるのは聞いてるから今さらショック受けるつもりもなかったけど。……その他人行儀な視線向けられるとショックだね」
「ご、めん…」
今の私の状況。
誰も傷つけないなんて、やっぱりできないんだな。
悲しそうな春乃の顔を見て、私はそう思った。
忘れられるってやっぱり辛いもん。
そんな私の様子を察してか、看護士さんはアドバイスするように言う。
「深く結ばれてた人ならきっとすぐに思い出すわよ。心が求めるはずだから」
「深く結ばれてた人…」
「そう。だって二人は親友同士なんでしょ?一緒にいた時間は絶対消えないもの」
私はもう一度春乃の顔を見た。
すごく心配そうに私を見て、気持ちを込めるように手を握る。
そっか……、親友なんだ。
うん、そんな気がする。
「じゃあ春乃って呼んでいいの?」
「あ…当たり前じゃんっ!」
周りにも聞こえるような大きな声でそう言うと、春乃はしくしくと泣き出した。
それを見てたら、なんだか私までもらい泣き。
「もぉー、陽奈まで泣かないでよ…ぅ。それに、陽奈には私よりもっと大事な人がいるでしょ!」
「……?」
私がボーッと見つめ返すと、春乃は急に真面目な顔になった。
たぶん、省吾のことを言ってるんだよね?
「陽奈にはよね……」
「春乃ちゃん。久しぶりだね」
「省吾」
何かを言おうとした春乃の後ろから、優しく笑う省吾が歩いて来た。
省吾と春乃も友達だったんだ。
「春乃ちゃん、あまり陽奈を刺激するような話はしないでね。体に良くないから」
「省吾先輩……」