病室の窓から見える中庭は、緑の木々が茂って光に眩しくて。

そこは記憶のどこかにある公園の景色と、なんとなく似てた。



場所も風景も人も、高校までのことは完璧に覚えてる。

それなのに、それ以降のことは、霞の中を歩くように景色が薄れていて。



忘れてるからって、生活することには何の問題もないんだけど。

なんだかちょっと寂しかった。



だって、せっかくの思い出。

そこに何が詰まってるかは分からないけど、その時にしか感じられなかったことや、その時にしか見れなかった景色は

これから作ればいいものとは、やっぱり違うから。



省吾を想ってた気持ちも、今は分かる気がしてる。

この先も一緒にいれば、何も思い出せなくてもまた恋に落ちるって。

そう思えるくらい、省吾はいつも優しくて真っすぐだったから。



でもそこにあった出来事は、その時だけの大事な記憶。

この庭を見て思い出す公園にだって、きっと省吾との時間が溢れてたんだろう。



できることなら、戻したいな。



「公園かぁ…。……ん?」



ふと下を見下ろすと、中庭の向こうに見える外来の病棟を、すごいスピードで走ってる男の人が見えた。

何を慌ててるのか分からないけど、いろんな人とぶつかりそうになって。

大事な人にでも、
会いに行くのかな……



バタンっ


「ごめんねー、すっかり遅くなっちゃった。でも日が傾いた時間の方が涼しいし!…って言い訳みたい?」



急に扉を開けられたから少し驚いた。

そして息を切らす看護士さん。



「全然。大丈夫です」



私がそう言って笑顔を返すと、看護士さんもホッとするように笑ってた。



「じゃあ行こうか」



ここに来て1週間ちょっと。

担当の看護士さんともずいぶん仲良くなれた。

今までの人も大事だけど、これから出逢っていく人たちだって、やっぱり大切だから。



さっきの急いでたあの人、大丈夫だったかな。

そんなことを考えながら、私は看護士さんの開けてくれたエレベーターに乗り込んだ。