「――陽奈」
いつもの声と、遠くを見つめるような視線。
「なに…?」
そしてゆっくり私に向けられる、感情の読めない表情。
「陽奈はどうするの」
「えっ……」
「オレと別れてどうするんだって」
「それは……」
省吾はもうわかってるはずなのに、私にすべてを言わせようとしてた。
でも、黙ってるつもりもない。
私はもう、全部はっきりさせるって、そう決めてたんだもん。
風が舞う静かな空間。
ドクン、ドクンと振動が胸を苦しめるなかで、見つめ合う時間が切ない。
「…私は、私は圭吾のことが…」
「どうして?何がダメなわけ?」
「省吾…」
「オレは陽奈にずっと優しかっただろ?悲しい思いだってさせてなかっただろ」
「そうだよ…、省吾には悪いとこなんてない」
私は勢いよく立ち上がった省吾を見上げた。
「圭吾は……、圭吾はオレの弟だぞ。何考えてるんだよ」
「うん…、ごめん。ごめんね……」
気が付けば、膝に置いた手にはいくつもの涙が落ちて
言葉を返すことさえ、困難になってた。
「圭吾はさ、オレがいない時のための代わりだろ。オレが忙しくて陽奈を守ってやれない時の代わり。
あいつは陽奈の恋人じゃない。オレがいる時はオレでいいだろ!」
強い口調に、何も答えられない。
でも私は首を振る。
だって圭吾は
代わりなんかじゃなくて…
「そうか…、陽奈はピアノが好きなんだね。わかったよ、それならオレにだって弾けるから」
「……っ」
そう言うと省吾は、私の腕を強く引いて歩き出した。
公園のすぐ向かいにあるあのお店。
今日もまだ、優しい光を建物の周りに溢れさせてる。
「省吾っ」
「来いよ!」