そして大会当日。


私と春乃、そして他の補欠のメンバーも、会場の裏方として動き回ってた。

先輩たちが日頃の成果を発揮できるように、身の回りのことから荷物の運搬までを受け持って。



「先輩たち!頑張って!」



良く合わされた音と、端切れのいいタンニング。

滑らかな指さばきと、息の合った全体の動き。



結果名誉な賞をもらい、先輩たちもいい意味で最高の引退を迎えられることになった。

自主的なことを除けば、明日からは部活に出てくることもなくなる。



「ご苦労さまでした!打ち上げの日程は後日お知らせします。今日は各自気をつけて帰ってください」



つまりこれは



「陽奈、帰ろうか」


「うん」



私と省吾が一緒に歩く
最後の帰り道。






「星きれいだなー」



午後の結果発表の後だから、空はずいぶん暗くなって。

街灯の明かりも、道行く人も、静かな道に強調されてた。



「部活がなくなるとなんか寂しいな。でも次は受験か」


「忙しいことが続くね」


「そうだな。でも陽奈が笑っててくれると頑張れるから」


「省吾……。今日はちゃんと、話聞いてほしい」


「…………」



沈黙と緊張。

わずかな呼吸も息苦しい。

でもここを抜けないと、進む道はないんだよね。



通りの向かいにあるあの公園。

大きな木の下にあるベンチには、賑やかな声が溢れることもあったけど

今は、圭吾の姿もなかった。




「……省吾、今までありがとう」


「陽奈…」


「私、省吾にたくさん大事にしてもらったし、たくさん楽しい思いさせてもらった。でも…、さよならしたい」


「……ーーっ」



省吾の深いため息。

こんなに辛いドキドキ
初めて経験する。

隣に座ってるのに、何も言わない省吾が遠く感じて。



「ごめんなさい…」



謝っても、本当は謝り切れない。

彼氏の弟を好きになる。

私はやっぱり
すごくひどいことをしたんだ。