「手術?」
「うん、海外でね。だからしばらくしたら戻ってくる約束なの」
「そうだったんだ…。なんかまた昔みたいに学校サボり出しちゃったとか噂されてたから」
練習場所の教室で、私は今までにあった出来事を春乃に話した。
本当は、もっと早くこうしたかったんだよ。
ずいぶん遠回りしちゃったけどね。
「うん、だからサボってるわけじゃないよ。それに今までだって、学校を休んで遊んでばかりいたわけじゃ……」
―――いずれ海外に留学させるつもりだからって、理事長がほとんど登校させることをしなかった―――
先生たちのあの話を思い出す。
圭吾は行きたくても、行けなかったってことじゃないのかな。
「でもさ、本当に大丈夫なの?省吾先輩の愛は大きいよぉ〜。そう簡単に陽奈のこと離してくれないよ?」
「何言ってんの!そんなことないってば。省吾だってちゃんと話したらわかってくれるよ」
「相変わらず考えが甘いよね。だって省吾先輩は大事なピアノを米倉君に取られたくないからって壊しちゃったことがあるんでしょ?
それを大事な陽奈までそうなるなんてことになったら…。普通じゃいれないと思うけど」
「春乃…、そんなに省吾を悪く考えないで」
気持ちは嬉しい。
でもだからって、省吾が私に何かするっていうの?
たしかにイベントの時は驚いたけど…、あれは省吾の私に対する愛情表現なんだろうと思ってるし。
今だって私のこと心配してくれて。
圭吾のことだって、手術を受けた方が圭吾のためだって。
私と春乃は無言で見つめあった。
「米倉君のことを良く思ってない省吾先輩が、自分の手のことは考えないで、米倉君の肩が治ることを願ったりするのかな」
かすかに大会の曲が聞こえてくる。
破滅と運命がテーマの自由曲は、低音が魅力的なバレエ音楽で。
その音は体の奥底に響くように、どこかで緊張感を漂わせた。
「米倉君、本当に行って良かったの?」
ドクン…っ