大会前でも、十分な基礎練習をやってから合奏を始める。

遠く延びていく音に耳を傾けながら、私は屋上の手すりに体を預けて空を見上げた。



「ごめんね、陽奈。部活の間は助けてあげられるけど、クラスの方まではなかなか行けなくて」


「助けるって…、そんなの必要ないよ」


「そんなことないだろ〜。ちょっと前までなら圭吾にも頼れただろうけど、今はオレしかいないんだよ?」



省吾の指が髪を流す。

懐かしい感覚と後ろめたい感情で、なんだか少しふらふらした。


圭吾が好き。
省吾とは別れる。

そう決めてから、省吾に見つめられることがすごく辛いんだ。


一緒にいた時間は決して短くない。

だから、好きだった気持ちの他にもいろんな思いが重なって。

それをあっさり断ち切ることができる人なんて、きっといるはずがないんだよ。



「もっと頼ってよ、オレのこと。今まではそうだったじゃん」


「うん。でも心配しなくていいよ。省吾は大会のことだけ考えてて」



私が笑ってそう言うと、省吾は真顔で返してきた。



「陽奈…、なんでそんなに強くなったの」







省吾が音楽室へ戻ってからも、私は屋上に残って聞こえてくる課題曲にリズムを合わせて足を揺らしてた。

出たい気持ちは、もちろんあったんだ。

だって一年の時は補欠だったんだもん。

やっと、出られるかもしれなかったのに…



「こんなとこにいたら、また先輩たちに何か言われるよ」


「えっ…」



一番よく聞いていたかもしれない声に、思わずうっすらと涙がにじむ。

振り返って顔を上げれば、そこには真っすぐに私を見てくれる春乃の姿があった。



「春乃…、合奏でなくていいの?」


「私今回も補欠だから。あ〜ぁ、来年は出れるかなー。そりゃ出れるよね、三年だし」



なにげなく話す普通の会話。

それがどんなに嬉しいか。