なかなか納得してくれなくて、ずっと言葉のない時間が続いたけど。

私がその真っすぐな視線をそらさないままでいると、圭吾は優しく微笑みながら頷いてくれた。



「わかったよ…。でも何かあったらちゃんと連絡しろ」


「うん。何もなくても連絡するよ」



そっと近づいて、まるで周りが見えないかのように抱きしめられて。

止まってほしかった時間は、未来を迎えるために動き出す。



私は待ってるよ。

だって私には圭吾しかいないもん。



「言っとくけどこっちにも連絡よこせよ。バンド抜けるのは認めてないんだから」


「圭吾くらい音合う奴いないしな」


「茜…、善矢…。ありがとな」



囲んでくれるいくつもの笑顔。


圭吾…
圭吾は思うほど独りじゃないよ。

みんなみんな、
圭吾のこと大事に思ってる。



他のバンドのメンバーに、ふざけて叩かれたり突つかれたり。

音楽で繋がってるって、なんだかちょっとうらやましい。


良かったね。

でも、もっともっと素敵な日々が、手術の後にはきっと待ってると思うから。



「頑張ってね、圭吾」


「野崎、すぐに帰ってくる」



圭吾の強い言葉は、いつまでも私の耳に残った。






それから圭吾は、日を開けることなく海外に飛び立った。

淋しくないわけはない。

やっぱり教室ではずっと一人だったし、部活にいてもいいことなんてないし。


でも圭吾もいろんなことに耐えてるはずだから、私も頑張らないといけないんだ。




「いや〜、重荷が去って助かりましたね、先生」


「まったくです。担任に決まっただけで胃が痛くなってましたよ」


「当分帰って来ないみたいだし、このまま退学なんてことも」


「それはどうですかね。なんたって理事長がうるさいですから」