「どうして受けないって?」


「さぁ、不安なんじゃない?でも絶対この機会を逃したら、一生あのままなんだよ。素直に手術受けて、もっと自由に弾けばいいのに」



眉をしかめて心配そうに語る省吾。

そんな様子に、私まで感情が揺らされた。



圭吾…、そんなの絶対受けないとダメだよ。

圭吾にとってピアノは、一番大切なはずだもん。

圭吾の思うように自由に弾くことができたら、きっと今よりも幸せを感じられると思う。



「やっぱり海外だってこと気にしてんのかな。言葉通じないし」


「海外?」



ドクン…

もしかして圭吾…



私の中で、確かじゃなかったことがなんとなくそうではないかと予想付けられた。

圭吾は多分…



省吾に送ってもらった後、もう一度坂道を上りあの店に向かう私。



ねぇ圭吾。

そんなこと考えないでよ?



遠くから見えるはずの窓の明かりが消えてると分かると、私は途中で道を変えて公園へと足を向けた。

今日はバンドのメンバーと会うって言ってたし。




「なんでだよ!」



この声、茜さんだ!


私はその声の聞こえた方へ視線を向けた。

そして近くの大きな樹の陰に姿を隠すと、圭吾たちの話してる内容をこっそり聞いた。



「別にやめなくていいだろ?たまに顔出すくらいできるじゃん」


「そうだぞ圭吾。お前の気持ちも分かるけど、一日中あの子と一緒にいれるわけじゃないだろ」


「悪い。でもオレできる限りあいつの近くにいてやりたいから」



ほら…やっぱり。

圭吾は私のこと考えて、私のために行かないんだ。

そんなのダメだよ。

絶対ダメ…



「だからって一晩中あの子の様子見てるわけじゃ…」


「やめちゃダメ!」


……!