ようやく衣装を片付け終わると、合奏の方も後始末を始めたみたいで。

早々に帰り支度を済ませた省吾は、息を切らすように私の元へ走って来た。



「陽奈、帰るよ!」



何日ぶりなんだろう。

こうやって省吾の隣を、想い合ってるかのように歩いて帰るのは。



夏の空には星が輝き始めて、きっと愛し合う二人には素敵なときめきの時間。

でも私は省吾に、正反対の話をしなくちゃいけないんだね。



「省吾…あのね」


「ちょっと待って」



私の前で立ち止まって、そんな話だと感じさせないように笑顔を向けてくる省吾。



「オレ今、大会前でいろいろ精神的に弱ってるんだよね。陽奈はさ、オレを癒してくれる存在だろ?」


「省吾…」


「疲れさせるような話はやめてくれよな」



半分笑って
半分笑ってなくて。

省吾は私の手を取ると、駅までの道を勢い良く歩いて行った。



大会前はいつもより遅い時間帯。

会社帰りのサラリーマンも、周りを気にすることなく夜道を通り過ぎてく。



「あ、そういえばさ、陽奈は知ってる?圭吾の手術のこと」


「えっ?」



突然出された初めて耳にする話。

この前二人で話した時には、そんなことひとつも言ってなかったのに。

どういうことだろう。



「圭吾…手術するの?」


「それがさー、あいつ祖父ちゃんがせっかく昔からの知り合いに頼んで優秀な医者を見つけてくれたっていうのに、受けないって言うんだよ」



たぶん手術っていうのは、肩を治すってことなんだろうって分かった。

でも省吾は圭吾を嫌ってるはずなのに、こんな時はやっぱり治した方がいいって思ってくれるのか。

そんな雰囲気に、私は少しだけ嬉しくなった。

ちゃんと圭吾のこと、弟だって思ってくれてるってことでしょ?