ねぇ、お母さんどうして?
分からないよ、寂しいよ……。

あれは忘れもしない7月10日のことだ。
「莉香~!!はやくしなさ~い!!」
いつものようにお母さんの声が家の中にひびく。
「うーん!!」
もう着慣れた制服を着て、洗面台の前で髪をセットした。
急いでリビングに行くとお母さんは
「お弁当忘れないようにね!!学校気をつけて行ってくるのよ!!」
「うん、分かってるよ」
お母さんは慌てた様子でカバンを手に取り玄関に向かった。
私も玄関まで見送りに行った。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
手を振りお母さんを送り出す。
まさかこの日が一生忘れなれない一日になるなんてこの時は思ってもみなかった。
一人きりになった家で私はなんとなくテレビを見ながら朝食の食パンを食べていた。
「今日の最下位はみずがめ座のあなた。何か悪いことが起きそう。ラッキーアイテムは……」
うわっ、最下位じゃん。
別に占いなんて信じないけど、最下位だとなんとなく気分が下がっちゃうよね。
そういえばお母さん夜ご飯のこと何も言ってなかったけど、言い忘れかな?
作った方がいいよね?
「それでは元気にいってらっしゃーい!!」
とテレビの中のキャスターが明るく手を振っている。
やばっ、もう家でなきゃ!!
急いで食べ終わると鞄を持って鏡で自分の姿をチェックして家を出た。
もうすっかり慣れた道を歩いて学校に向かう。
学校が終わるといつものスーパーに寄り買い物をする。
今日は特売が多くて買いすぎちゃった、、、。
家に帰るとすぐに晩御飯の準備をした。
晩御飯のカレーを作り終え、課題や洗濯などやることを終わらせてソファでひと段落着く。
時計を見ると夜9時を指していた。
「お母さんそろそろ帰ってくるかな?」
テレビでも見て時間を潰そう。
テレビ番組が終わり時計を見ると夜10時を指していた。
お母さん遅いな…。
何時になってもその日お母さんが帰ってくることはなかった。
翌朝、目が覚めると昨日リビングの机で寝てしまったんだと気づいた。
そして、お母さんはまだ帰ってきてないことも分かった。
どうして?
時計を見ると朝の6時。
不安な心を誤魔化すように学校に行った。
帰ったらお母さんが「おかえり」って言ってくれるような気がしたから。
でも、家に帰ると静かな空間がそこには広がっていた。
お母さんに電話したがでることはなかった。
不安で寝れない日が続いた。
誰にも相談はしなかった。
そもそも相談なんてできる人なんていなかったし、何よりも現実を突きつけられるのが怖かった。
お母さんは絶対に帰ってくると信じたい思いともう2度と会えないんじゃないかという恐怖が入り交じっていた。
お母さんが帰ってこなくなってもう3日が経っていた。
ご飯もろくに食べない、寝ることも出来なくて私はみるみるうちに衰弱していった。
お母さん今頃どこで何をしているの?
布団にくるまりテレビでニュースを見る毎日。
私は次第にお母さんに電話するのさえ辞めてしまった。
お母さんが帰ってこなくなってからもう1週間が経った。
プルルルル…プルルルル…
家に電話がかかってきた。
もしかしてお母さん!?そう思い慌てて電話に出た。
「はい…!」
「○○高校の1年2組の担任の高木です」
なんだ学校か…。
「もしかして立花さん?よかった、心配してたのよー!親御さんいるかしら?」
お母さん…。
ねぇ、どこにいるの?何してるの?
「……いません」
…ガチャ。
そう告げると一方的に切ってしまった。
先生が何か言った気がするけどそんなのどうでもよかった。
もうお母さんは帰ってこないって認めてしまった。
あまりにも自分が惨めで、どうしてこうなったのかも分からなくて、私はその場で泣き崩れてしまった。
ねぇ、どうして!?私何か悪いことした!?それならちゃんと謝るから!!だからお母さん帰ってきてよ!!ねぇ…なんでよ…。
次の日の朝。
ピンポーン…ピンポーン…
昨日は泣き疲れて寝てしまっていたようだ。
ピンポーン…ピンポーン…
だるい体を起こして玄関に向かい扉を開けた。