「そういえば、妹さんは彼氏とかいないの?」


私はオレンジジュースを口にしたばかりだったので、思わず吐き出しそうになった。
こいつは意地でも私に喧嘩を吹っ掛けてきたいらしい。


「いますけど?」


私は努めて冷静に冷めた目で恵令奈を見た。


「へぇ、それはそうか。美人さんだものね。ねぇ、彼氏は呼ばないの?」


「呼びませんよ。」


「えー?どうして?恵令奈会ってみたい。」


純粋そうにそう言って私を見つめるけれど、やっぱりその瞳は笑ってはいなかった。
多分、この女は私とシオンの関係に気がついて居るんだろう。

だからそんな事を言い出したのが、バレバレだった。
いい加減文句の1つも言ってやりたい気分になったけれど、私よりも先にシオンの逆鱗に触れた様だった。


「……こいつに構うな、消えろ。今すぐにだ。」


有無を言う隙も与えずに、シオンは冷たくそう言い放って恵令奈を睨み付けた。
恵令奈は酷く動揺して、助けを求めるように回りを見渡したけれど、誰も恵令奈に声すら掛けなかった。

恵令奈は前に見た時と同じように、唇をきゅっと結んで乱暴にバッグを持つと、急ぎ足で螺旋階段を降りて行った。


その後ろ姿が完全に見えなくなると、柴崎さんがシオンに向かってこう言った。


「良いんですか?彼女と揉めるのは余り良い事だとは思いませんが?」