シオンの隣に座った女が、然り気無くシオンの足に触れようとしたのを鬱陶しそうに振り払ったのを私は見逃さなかった。
その瞬間、あの子がこの女とシオンの関係を不安に思っていたことを思い出した。
折角来たのだから、ちょっとだけ構ってみようかと悪戯心が芽生えた。
「自己紹介が遅れましたね。私は柴崎と申します。こっちは多野です。」
鋭い目付きの男の人は、礼儀正しくそう言って私に手を差し出した。
私は一応自己紹介をするべきか迷って、手を差し出しかけたけれど、シオンの一言でその手を下げた。
「必要ない。」
シオンがそう言うと、柴崎さんは苦笑いを浮かべた。
「噂通りなんですね。」
柴崎さんはそう言って、不適に微笑んだ。
そんな言い方をしたら、シオンの怒りに触れるんじゃないかと一瞬思ったけれど、どうやらシオンは大して気にもしてなさそうだ。
噂って何だろうと思ったけれど、私が知る必要ない事はシオンは教えてはくれないから、深くは考えなかった。
この人達はいつも一体ここで何をしているのか、物凄く気になったけれど、先ずはもう少し様子を観察しよう。
そしてさっき芽生えた悪戯心で、私はあどけない笑顔を浮かべて気に障るあの女に話し掛ける事にした。
「あの…貴女はシオンの彼女ですか?」
笑顔でそう問い掛けてみた。