講義が終わり、帰ろうとしている私の携帯に一本の着信があった。
相手はなんとなく予想が出来た。
「‥‥もしもし?うん、今講義終わった所だけど」
「おー、結お前今日空いてる?暇なら家来ねえ?」
「あれ?陸今日休みだっけ?‥うん、別に行っても良いよ」
案の定電話をかけてきたのは陸。
彼氏でも友達でもない、セフレ。
陸とは相性も良いし、お互い都合が合えばよく会っていた。
家に行く時間を決めたら電話を切る。
他愛のない会話をした事はない。
陸には彼女もいるし、精神的な癒しを求められないのは当たり前だった。
私も陸に対して恋愛感情はない。
だからこの関係や自分の立ち位置に不満は一切無かった。
「そろそろこんな事も止めなきゃな‥」
口には出してみるが、すぐに関係をたつ事が出来ないのは目に見えていた。
ため息をつきながらフラフラ歩いていると、誰かにぶつかってしまった。
「‥っ!?‥すいません‥!」
「いや、俺の方こそ‥‥え‥?」
相手からの謝罪は途切れ、変わりに聞こえたのは驚きの声。
"え"って何?
私何か変??
思わず顔を上げると、戸惑いを隠しきれない表情の男性が私を見ていた。
誰‥?
なんでこんなに驚いてるの?
私の事知ってる人?
ハテナでいっぱいの私に彼はただ一言‥‥
「‥藍川 結‥‥さん?」
私の名前を口にした。