side:セルリア
俺の居たあの廃墟はイルバー通りのものだった。キハウズ通りから少々離れているが、特別遠いわけでもないので、俺はすぐに『Sicario』に辿り着く事が出来た。

何だか久しぶりに、目にする見慣れたドアのドアノブに手を掛けた。
ドアを開こうとした時、内側から突然開けられ、ドアの角が俺の額にぶつかった。
額を押さえ、悲痛の声を殺しながら、俺は其の場にうずくまった。


「おっ!セルリア~!!帰ってたんだね!!」


このムカつく明るい声はあいつだ。ギフトだ。


「何うずくまってんの?早く中に入りなよ。」

「手前ェがいきなりドア開けたからぶつかったんだろうがよ!!!」

「解った、解った。一々そんな事でキレてないで、報告をくれないかな。」


言い返したい衝動に駆られたが、ギフトに言い返した所ではたかが知れている。
俺は言葉の代わりに溜息をつくと、家の中へ入って行った。


「よく生きてたな。」


ナタリアが疲れ切った顔で言ってきた。


「殺人鬼なめんなよ。」

「久しぶりですね。」


懐かしい声と思ったら、ファクトじゃないか。
恐らくギフトが呼んだんだろうな。


「そうだな。」

「マスターに迷惑、心配、其の他諸々、掛けていませんよね。」

「一々うるせぇーな。“ファック”」


俺はファクトに嫌味を垂らして言った。


「私の名前を文字って、“死ね”と言わないで欲しいですね。教養も無い癖に。」

「“ファック”は確かブルタル語だったけか?良い言葉じゃねぇーか。ファクトにそっくりで」

「表へ出ますか?」


ファクトが額に血管を浮かべて、親指で玄関のドアを指した。


「別に良いけどよ...。後で泣いても知らねぇーぞ。」

「其の言葉、そのまま返します。」

「2人共、喧嘩しないで。」


ギフトが俺とファクトの間に入って、距離を開いた。
ちょっと茶化しただけじゃねぇーか。
乗ってくるあっちが悪いんだよ。


「セルリア。『不思議の国』と接触して、何か解った事あるかい?」

「解った事っつたって...俺記憶がねぇーんだよ。多分実際会ってんのはケビンだと思うぜ。」

「...そうか。」

「ふんっ...役たたず。」

「あ゙ぁ゙?」


ファクトの額に俺の額をぶつけて、ガンを飛ばす。


「だから、止めてって...。」

「...兄さんの言う事が聞けないの?」


ドールが俺とファクトの頭を掴んで、ドールの方向に無理矢理向かせた。
完全にスイッチが入った目をしていた。


「ドールも止めろって...。まぁ、セルリア。記憶が無いのは仕方が無いとして、他に何か無いかい?」

「他か...此れくらいしかねぇーな。」


俺はコートのポケットから、あの手紙を取り出して、ギフトに渡した。
ギフトは其の手紙に目を通すと、瞳を細めて口角を上げた。
大方、予想通りと言ったところだろうな。