「まずは、役割を決めようじゃないか。
あたしとチェシャ猫はクソ野郎を、アリスと公爵夫人は白ウサギを...良いかい?」


ハートの女王が私を含め、3人に目配せする。
私達はそれぞれに首を縦に動かした。
ハートの女王は其れを確認した。


「さぁ、仕事の時間だ!」


其の掛け声と共に、私達は二手に分かれた。
ハートの女王とチェシャ猫は先程の廊下を戻り、私と公爵夫人は別方向へと歩を進めた。

貴族...と言っても私は原作者の住んでいるこのお屋敷しか知らないのだけど、一般街と比べ物にならない程広い。
部屋の数が尋常ではないのだ。
白ウサギが何処に居るのかなんて、検討もつかない私達は、手当たり次第に部屋を調べて行った。


「一体、何処に居るのでしょうか...?」

「解らないわ。」

「せめて目星さえ付けば、良いのですが...」


公爵夫人が顎に手を添え下を向く。
私より長く此処に居るので、何か解る事が有るかもしれない。
私は公爵夫人の返答を待った。


「...確か、大事なモノは特別な場所に置くと、言っていた気がしますわ。」

「特別な場所...。」


公爵夫人の出したキーワードを、私も一緒に考えてみた。
特別な場所...一体何処なのだろうか。
此処で過ごした時間は、他の皆より短い。
だけど、一度だけ原作者は私の手を引いて、何処かへ連れて行った気がする。
よく覚えていないけど、私は其処で初めて白ウサギに会ったもの。

白ウサギがあまりに綺麗で、其の前後の記憶が曖昧だ。
如何やって私は白ウサギの元へ行っただろうか。

2人、立ち止まって考え込んでいると、数m先から足音が聞こえた。
公爵夫人が私を庇うように、前に立って短剣を構えた。


「何者ですか!」


足音は廊下の曲がり角から姿を現した。
スーツを着た黒に近い茶髪の人だ。


「漸く姿を見せたな...。『不思議の国』」

「ちょッ!キース?先パイ!そんな堂々と行かないで下さいっスよ!!怖いじゃないっスか!!」

「お前は下がってろ。」

「マジで殺っちゃいそうな顔で、こっち見ないで欲しいっス...。」


廊下の影から茶色に近い金髪の人が、顔だけ出している。
この人が呼ぶキースと言う人は、私達を完全に敵とみなしている。
だって手に拳銃を持っているもの。きっと殺す気ね。


「捕まえにでも来たのですか...?」

「いや...、犯罪者は殺すまでだ。」


彼は其の言葉で銃を放った。
公爵夫人は身をかがめ、銃弾を避けると私を近くにある部屋の中へ連れ込んだ。


「此処で待っていて下さい。」

「ファルファー!!」


私がそう叫ぶと、公爵夫人はにっこりと微笑んで、私の頬を撫でた。


「久しぶりに呼ばれましたわ。そんな顔しないで、スラファ...。ちゃんと戻って来ますから。」


公爵夫人はそう言って手を離したが、私には彼女が名残惜しそうに、私を見ていると感じた。
本当に戻って来てくれるの。

公爵夫人が部屋から飛び出して行った。
其の瞬間再び銃弾が鳴り響く。
私はジっとしていられず、扉の隙間から外の光景を覗いた。

鬼の様な形相でキースと言う人は、公爵夫人と対峙している。
銃弾が尽きると、銃を投げ捨て懐からサバイバルナイフを取り出した。
彼の斬撃に公爵夫人はなんとか耐えているが、男と女の差は酷な程に歴然だった。