レイジは「座りな」と、自分の右隣へと明子を促した。

明子はうなづき、レイジの横に人ひとり分を空けて座った。


緊張がピークに達してしまいそうだった明子だが、どうにか話題を見繕わなければ間が持たないと思い、



「レイジくんが煙草吸うなんて知らなかった」


レイジの笑みは、途端に困ったようなものになる。



「これだけは、どうしてもやめられなくてね。でも、今はあんまり人前では吸わないようにしてたんだけど」


『これだけは』だなんて、他の何かはすべてやめたような口ぶりだ。

明子はよくわからずに首をかしげた。



「意外だよね。レイジくんって、煙草吸ってるイメージなかったから」

「俺はあきちゃんから見たらどんな人に見えてる?」

「えー? 優しくて、かっこよくて、完璧な人って感じだけど」


だから、大好きなんだけど。

と、言いたかった言葉を、明子はどうにか飲み込んだ。


しかし、レイジは目を伏せ、自嘲するように、



「俺はそんなにすごい人間じゃないよ」


どうしてそんな顔をするのだろう。

そういえば、健介も先日、『レイジくんはお前が思ってるような人じゃねぇし、あんま美化して見すぎねぇ方が身のためだぞ』と、言っていたけれど。


息を吐いたレイジは、



「俺はね、昔はすごく悪いやつだったんだ。たくさんの人を泣かせたし、利用した。それを『悪いこと』だとも思わないようなやつだった」

「……え?」

「自分が一番で、金がすべて。頭の中にはそれしかなかったし、ずっとそうやって生きてきたんだ」


レイジの過去の片鱗。

明子の知らなかった、レイジのこれまで。


途端にレイジが遠い存在に思えてきて、怖くなった明子は、



「でも、今のレイジくんは違うでしょ。過去がどんなものであろうと、今のレイジくんはあたしから見れば優しい人だよ」