腕を引っ張られ、路地裏に引きずられた。



「痛いって! 離してよ!」


抵抗するが、力では敵わない。


筋張った、健介の太い腕。

昔はあたしと背丈も変わらなかったのにと思うと、急に健介の中の『男』を感じさせられた。



人のいない路地裏でやっと手を離してもらえ、明子は涙を拭った。



「お化けみたいな顔だな」


拭った涙はマスカラと混ざって黒くなっていた。


自分の悲惨になっているであろう顔を想像したが、今更、健介相手に恥じらいも何もない。

明子は「うっさい」と一蹴して、



「で、何なのよ。あたしをこんなところに連れ込んで」


健介は肩をすくめて壁に寄り掛かった。



「泣いてたら気になるだろ、普通」

「泣いてないし」

「泣いてんじゃねぇかよ」


健介は「レイジくんに振られたか?」と問うてきた。

明子は口を尖らせる。



「カノジョいる人に告白なんてするわけないじゃん」

「あぁ、聞いたんだ?」


その口ぶりから、健介は知っていたのだろうなと思った。

でも、今はそんなこと、どうだっていい。



「お母さんと喧嘩した」

「ん?」

「お母さんに家が恥ずかしいとかもう嫌だみたいなこと言ったら、平手打ちされて、『じゃあ、出て行きなさい!』って言われて」

「それで家を飛び出したわけか」