「こんな古臭い商店街の中に実家があって、しかも家業が布団屋で、あたしは恥ずかしいんだよ!」

「なっ」

「あたしだって友達みたいになりたい! せめてうちのお父さんが普通のサラリーマンだったら」


そこまで言った瞬間、バチン、と頬を張られた。

驚いた後で、顔の左半分が強烈な痛みに襲われた。


母は鬼のような形相で、肩で息をしながら、



「あんたって子は、言っていいことと悪いこともわからないの?!」

「『言いたいことがあるなら言いなさい』って言ったのはそっちじゃん!」


明子は頬を押さえ、涙目で抗議した。



「もう嫌だ! ほんとに嫌だ! お母さんも、こんな家も、何もかも!」

「じゃあ、出て行きなさい!」


言われた明子はそのまま家を飛び出した。



二度と帰ってやるものか。

むしろ縁が切れてせいせいする。


それでも涙ばかりが溢れて、足を止められないままでいたら、



「きゃっ!」


どんっ、と誰かにぶつかり、明子はその衝撃で鼻を強打した。



「何やってんだよ。おい、大丈夫か?」


顔を上げたら、健介だったから驚いた。

慌てて泣き顔を隠すようにうつむいたが、時すでに遅かったらしく、



「って、何で泣いてんだ?」


健介はまじまじと明子の顔を覗き込む。

明子はバツの悪さから、「関係ないでしょ」と、ぶっきら棒に返したが、



「ちょい、お前、こっち来い」