「ねぇ、浩ちゃん」
「ん?」
駅に向かいながら、穏やかな笑みを浮かべる浩ちゃんの私服の袖をクイクイ引っ張る。
先程補足で聞いた事だが、どうやら浩ちゃん、学校から帰って一旦私服に着替えてから遊びに出掛けたらしく、今はとてもラフでシンプルな格好。
でも、小物の時計を手首にさりげなく身に着けているからちょっとお洒落で大人っぽい。
…ちょっと格好いいではないか。
浩ちゃんのくせに生意気な!と訳のわからない文句を心で零しながら、ジー…と浩ちゃんを見る。
浩ちゃんはそれだけで私が何を言いたいのか察したよう。流石浩ちゃん。
そして、キョロキョロと周りに視線を這わせながらちょっとだけ困ったように私に視線を戻した。
「…最寄り駅に着いてからじゃだめ?」
頬を本の少し桃色に染めて、
私に訴えかけた。
…ここではちょっと、と。
「…分かった」
不服ながらも、確かに周りを見れば駅には少し人が多くて都合が悪い。
浩ちゃんが困る事は極力したくないけど……かなり残念だ。
「…ごめんね?
最寄り駅に着いたらしてあげるから」
「…うん」
「…奈央ちゃん」
「…うん、分かってる。我慢する」
「…我慢する顔に見えないけど」
「気のせいだよ。我慢します。
…浩ちゃんを困らせたくないし」
「……」
急に黙った浩ちゃん。
そして、暫くしてから、ハァー…と長い溜め息を溢しながら顔を片手の甲で隠した。
耳が少し赤い。
「…何で照れてんのさ、浩ちゃん」
「…いや、ごめん。奈央ちゃんが可愛過ぎて…なんかよく分かんないけどキた」
「はぁ…?」
「…俺が我慢出来ないじゃんか」
奈央ちゃんのバカ。
そう言って、
私の腕をグイツと引いた彼。
急な展開に驚いて、声を上げずして浩ちゃんの腕の中に包まれる私の体。
優しい強さで包まれた温もりに心底ホッとして、バカと言われた事も直ぐにどうでもよくなり、体を浩ちゃんに預けた。
「…浩ちゃん、人が居るよ」
「うん」
「良いの?」
「もう、諦めたよ」
奈央ちゃんの何かあったって顔、
他の人に見られたくないしね。