ゆっくりと後ろを振り返る。
自分の顔に浮かんだ微笑は
随分柔らかで穏やかだ。
「――…浩(コウ)ちゃん!」
声の人物の姿を捉え、
その人に駆け寄る。
浩ちゃんと呼ばれた人物は、穏やかな笑顔を浮かべながら小さく手を振ってくれた。
それが少し嬉しくて、
足早に浩ちゃんの真正面に立つ。
そして直ぐ様、私は言葉を発した。
「浩ちゃん、どうしたの?
何で駅に居るの?学校は?」
質問責めで浩ちゃんに問い掛ける私。
浩ちゃんはそんな私に苦笑を零さずに
穏やかに対応をしてくれる。
流石、長年隣に居ただけある。
「学校は、随分前に終わったよ。今日学校が半日だったからね。んで、午後暇だっだからゲーセンとか図書館とかをぷらぷらしながら遊んでたんだよ。
そろそろ帰ろうかなって思って駅前来たら、奈央ちゃんらしき背が見えて声かけたら奈央ちゃんだったってわけ」
「…な、成る程」
長々と説明されだが、何とか理解した私。
そんな私に浩ちゃんはクスクスと笑っていた。
「もー、浩ちゃん笑わないで」
「ごめんごめん」
笑われた事が本の少し恥ずかしくて、
ムッと膨れっ面になる。
「…浩ちゃん、
"OFFモード"になって良い?」
確認するように、私より背の高い浩ちゃんを見上げてそっと聞く。
「いいよ…?」
浩ちゃんはクスッと微笑んで、
私の頭を撫でてくれた。
温かく、優しい温もりに、
じんわりと心が解れていく。
――…浩ちゃんの前では、本当の自分に戻る私。
"本当の私"つまり、"OFFモード"の私を知るのは、浩ちゃんや信頼した人だけ。
それ以外の人には、"OFFモード"状態の私を絶対に見せないし、見せられない。
と、言うのも。
スイッチがパッと"OFFモード"に変わると、途端にどんなことに対してもだらっとして感情が表に出て子供の様に変わってしまう私。
自分の事も他人の事に対しても、全てがだらっとして感情のままに行動を起こしてしまうから、普段の"ONモード"、つまり学校等の外コミュニティー用での私を見ている人達が"OFFモード"の私を見ると、当然驚く。
そしてその内、そんな私に愛想を尽かせ段々と離れて行くというそんな苦い過去が何度かあったため、簡単にOFFモードの自分を見せないようにしている。
でも、浩ちゃんはOFFモードな私を前にしても、昔から変わらず接してくれる。
だから、私は浩ちゃんを信頼し、
大好きである。