「――…ちゃん。お嬢ちゃん」
「……へ?」
声のした方に目を向ける。
そこに居たのは、バスの運転手。
「…大丈夫かい?随分ぼー…としてたけど…終点の駅に着きましたよ?」
そう言って、心配そうに眉を下げながら私を見る運転手。
運転手の言葉に、駅に着くまでぼんやりしていたんだと自覚した。
「す、すみません。疲れててぼんやりしてて…直ぐに降りますね」
苦笑を交えつつ、リュックからバスの回数券を出して出口前の料金箱に入れ、バスを降りる。
バスから降りれば、ビュー…と肌を刺すような冷たい風が容赦なく顔面に当たる。
マフラーを巻いてない首を抜ける風に髪を拐われながら、駅前に設置されている時計台に目を向けた。
時刻は既に18時を裕に越えていた。
「…寒いな」
無意識に零れた独り言。
それは冷たい空気によって、白く頼りなく闇夜になる空へと溶けていく。
それをぼんやり視界に捉えていれば――…
「――…あれ?奈央ちゃん?」
よく知っている声が後方から聞こえた。