バッと急いで西藤の手を腕から離す。

温もりの消えた腕がやけに冷たい。


西藤は、そんな私に気にすることは無く、
目の前まで来た彼女――…今、西藤と付き合っている演劇部後輩の彼女に視線を向けていた。



――…嗚呼、やっぱり私は弱い。



目の前で西藤と話す彼女に、
少なからず嫉妬をしている。


だけど

それ以上に


胸の奥底が
鈍く重く痛いんだ。



――彼の隣に立てるのは目の前の彼女なんだと、嫌でも思い知る。



キュ…と制服のスカートを握る。



惑うな、私。


弱い私なりの、
今、するべき事は何…?



目の前の、楽しそうに笑う二人を
視界に映しながら必死に考える。



――…嗚呼、そうだ。



これを、私は今、
しなければならない。


線引きを、しなければ。


じゃなきゃ、西藤が
そして彼女が困るだろう。



だって、上手くいってないとしても。



私は決して、この二人の
邪魔をしたいわけではない。


応援はもう、出来ない。


だけど、今、確かにある二人の笑顔を
私のせいで失わせたくない。


だから頑張れ、私。




「西藤」




小さく、西藤にだけ
聞こえる声で言葉を紡ぐ。


でも、私と西藤の関係に彼女が疑問を持たないように自然な感じで…。


苦しく痛む、そんな心は
胸の奥深くに隠す。



「ほら…彼女来たから行きな?
変な意地張らずに素直に彼女と帰りなさい、アホ西藤」



緩く口許を上げ、
笑顔で彼の背中をぽん…と押す。


西藤は、驚いたように私を見詰めた。
彼女はきょとんと私の顔を瞳に映す。


背が私より小さくて、
小動物みたいで可愛い彼女。


……私とは正反対だなぁ。


心の中で苦笑する。


「えっと…、先輩のお友達の方ですか?」


「うん」


「西藤先輩と仲、良いですね…」


ヤキモチ、妬いてるんだよね。
…そりゃあ、妬くか。


彼女になれば尚更だよね。