「……何で、上手くいかないのかな」



ポツリ、西藤が弱々しく言葉を零す。


カキーン…と、グランドで練習をする野球部の残響が保健室に寂しく届く。


廊下では、学校に残る生徒の楽しそうな
穏やかな声が聴こえる。


生徒の笑い声が遠くなっていくのを感じながら、きゅ…と西藤が更に、私を自身の腕の中へ引き寄せた。



トクントクンと交じるお互いの心音。

じんわりと甘く切なく感じる
彼の温かな体温。



彼の存在が確かな腕の中。
感じた痛みは酷く残酷で。



「…ごめん」



そう言った彼は私を抱き寄せたまま、
ゆっくりと上体を起こした。


ギシリと響くスプリング音。


西藤の揺らぐ瞳と私の瞳が
静かに交じり合う。


感情の見えない無の表情を向けられているのに、彼の纏う空気は酷く孤独で寂し気に思えて。


そっと顔を伏せて近寄って来る
彼の吐息を近くで感じたとき。


彼は悲しそうに苦しそうに
私の肩に顔を埋めながら。



消えそうな儚げな声で

小さく心の音を溢す。




「…甘えさせて…?」




ズクン…悲しい痛みの音が
心の奥底で静かに鳴る。




「……いいよ」




そう言って、そっと西藤の背に回した手で西藤の制服を掴みながら、柔く優しく頭を撫でた。




――…私は、きっと

愚かなどうしようもない人間だ。




好きな人の慰め役をして。

それで更に自分を
惨めに傷付けているのに。



それでも。



それでも彼の傍に居たいと願ってる。



――…彼を少しでも安心させられるなら。幸せに出来るなら、自分は傷付いても構わないと。



そう、思ってる。



例え、それで自分が苦しんだとしても。

辛くて、泣きそうになったとしても。



彼が幸せに笑ってくれるなら、



私は、構わないんだ。



そう、強く思ってる。