悲しいけど
苦しいけど
彼は今、私に無言のヘルプを出している。
「…西藤」
伸ばした腕が、彼の頭を包みこむ。
誘導するように、彼の頭を自身の胸に沈ませて、緩く柔く彼の髪の毛を撫でる。
「…何してんの」
小さな声がゆっくりと胸に響く。
「…撫でてるの」
そう言いながら、空いた片手でぽん…ぽん
…と一定のリズムを刻みながら緩く背中を撫でるように弱い力で叩く。
ズクン…重くて、鈍い痛みが胸に広がるのはきっと気のせい。
少し上体を起こして、彼の体に自身の体を近付けようと動いたが。
「……!」
それよりも前に、
彼の腕が私を強く引き寄せた。
ギュゥ…と込められた力。
痛いと思っても口には出さず、彼の髪の毛を撫でる手と背中を叩くのを止めない。
止めたら、ギュゥ…と緩く込められる力。
まるで止めないでと言っているようで。
私はただ、手を止めない。
視線は後方のカーテンに当てられていて、今、彼がどんな表情をしているのか分からない。
でも、見ないでほしいと言っているように顔を胸に深く埋めているから見ないでおく。