「そんじゃ、まだ知恵も目を覚まさないけど・・・動かないままでいても何も始まらない。」

すっかりいつもの頼れる部長に戻った春人。

それでも、久阪は春人にどこかいつもとの違いを感じた。

いや、それは今にはじまったことでは無い。

まず、いきなりイギリス行きを決めた時点で、いつもの春人とは違うのだ。

確かに、多少天然めいた発言をすることもあるが、節度等はわきまえている男だと。

「まず、すべきことはいくつかある。俺が考えているのは、まず出口探し。それか外部との連絡手段。この二つが一番大切だろう。」

ズボンのポケットから取り出した手帳に、ホテルの部屋に備え付けてある万年筆でさらさらと口に出したことをまとめていく。

「次に、万が一すぐに出られなかった時のための食料、医療品などを探す。」

「食料なら、さっきフロントに行った時にレストランの厨房も確認したっす。かなりの量があったすよ。」

落ち着きを取り戻しはじめた水無月の背をさすり、手を握りながら久我が進言した。