何曲か弾き終わると、壁に掛けられた時計に視線を向ける。
時刻はもう夜中に近い時間になっていた。
私は楽譜を片付けて鍵盤蓋を閉じると、丁寧にカバーをかけた。
楽譜を持って部屋に戻ろうとすると、微かにリビングから喋り声が聴こえてくることに気がついた。
朝の出来事を思い出し、一瞬どうしようか迷ったけれど、流石に無視して寝るのも気が引けた。
私は静かにリビングに向かった。
リビングの扉の前で一瞬立ち止まる。
何だか、開けたくない気分だったけれど、私はその扉をゆっくりと開いた。
「お?あーちゃんいたの?」
リビングに居たのは案の定、シオンとレオンだった。
2人はいつの間にか帰宅して、昨日と同じようにソファを占領して勉強をしているようだ。
「ごめん、帰ってたの気付かなかった。ご飯は?」
2人が普通の空気で安心した。
朝のように、シオンがイライラしていることもない様子だった。
私はそう言って、キッチンに向かった。
「食ってきたからいらないよ。」
レオンはそう言って、ノート片手に大きく伸びをした。
私は自然とシオンに視線を向けた。
レオンは食べていても、シオンは分からないからだ。
シオンは一瞬顔を上げて私を見たけど、黙って首を振った。
それが要らないということだと理解した私は、電気ケトルに水を入れてスイッチを押した。