違う、これはお母さんじゃない。

だけれど、私の耳には聞きたくない声が響き渡っていた。


“あんたのせいであの人が怒ったじゃないか”

違う・・・

“あんたがちゃんといい子にしないから!”

違う・・・
違うよ・・・





意識がどこかに行ってしまいそうになった瞬間、私は和也の声ではっと我に返った。



「かなう?・・・かなう?」


ゆっくりと瞳を開けると、私を心配そうに覗き込む和也の瞳と視線が合った。
和也は私の両手首をしっかり掴んで、私の顔を覗き込んでいた。


「・・・ごめん。」

私はそう言って、耳から手を放して顔を上げた。

凛はすぐ傍に居た。
やっぱり不安そうに私の顔を見つめている。

何とも言えない気まずい空気が部屋を汚染しているようだった。
私はなんとか悟られないように、必死に言い訳を考えた。


「あ・・・あのね、私・・・・耳がすごく良いの・・・だから、びっくりしちゃって・・・ごめん。」


意味の分からない言い訳にしか聞こえないけれど、私はそれ以外の言い訳を考え付かなかった。
耳が良いのは嘘じゃない。

私は未だ震える身体を、誤魔化すように座りなおした。


「そうなんだ・・・ってか、いきなり怒鳴ってごめん。でも、かなうに怒ったわけじゃないよ?」


凛はそう言って、私の隣に座る。