「そういう問題じゃありません!!」

ママはそう言って、つかつかとレオンの所に向かって行って、いきなりその頭を平手で叩く。

「あんたには節操ってものがないの?」

「いてぇ!」

「本当に、追い出すわよ!!」

「だから、ちげぇって!」

目の前で繰り広げられるママとレオンの攻防戦は暫く続いていたけれど、私は成すすべもなく黙ったまま俯いた。

どういう風に説明するべきか必死に頭で考えていると、今まで無言だったシオンが突然口を開いた。


「悪ふざけも大概にしろ。」


レオンに向けられたその言葉に、私は途端に冷水を浴びせられたかのように身震いした。

ただの言葉なのに、身を貫くかと思うほどの低く冷たいその声は、今まで聴いたことがなかった。

こんなにも長い時間一緒にいるのに、一度も聴いたことがないその声。

ママも押し黙ってしまったし、レオンも何だかバツが悪そうにしかめっ面になる。


「だから、違うって。アンナが歯磨きしてる時にたまたま俺が入っただけだ。」


「・・・・そうなのか?」


レオンの説明に、シオンが私に視線を向けてそう聞いた。

これ以上、ことが悪化しないように私はただ頷いた。
本当はからかわれたけれど、そんなこと冗談でも言える空気じゃない。