「何かあったの?」
二人でリビングに向かいながら、ママがそう言った。
いつもなら、ピアノを弾いてるか寝ている私が慌てて玄関に来たので不思議に思ったのかもしれない。
「ううん、何でもないんだけど。」
リビングに入ると、ママはテーブルの椅子にコートとバッグを掛ける。
私はキッチンに入って、ママがいつも飲む紅茶を入れるために電気ケトルのスイッチを入れた。
「ママ、紅茶でいい?」
「うん、ありがとう。」
「何か食べる?」
「ううん、大丈夫よ。ありがとうアンナ。」
私は紅茶を入れるポットとカップを用意して、お湯が沸くのを待った。
ママはダイニングテーブルに座って、そんな私を見ながらいつもの様にタバコに火をつけた。
ママがいつも吸っているタバコの香りがする。
「アンナ、大丈夫なの?こんなに夜更かしして。」
「うん、さっき少し寝たから目が覚めちゃって。」
本当は寝てないし、ママに会いたかったから起きていただけだったけれど、それを伝えるのはなんだか恥ずかしい。