久しぶりに涙を流す感覚を思い出したせいか、ピアノに熱中しすぎたせいかわからないけれど、その後の私は脱力しかたのように身体中の力が抜けた。


どんなに悲しくても、どんなに痛くっても、どんなに辛くっても、決して泣くことはなかったのに。


涙は流れたけれど、今は悲しくもないし、痛くもないし、辛くもない。


なぜ、涙が出たのかすら私には理解出来なかった。

ただ漠然とした不安だけが、心に取り残されている。



私はふらつく足取りでなんとか立ち上がり、防音室を出ると顔を洗いにバスルームに向かった。


こんな姿を誰かに見られたくなかった。


ここにやってきてから、泣いたことがない私。


こんな姿を見られたら、きっとまた余計な心配をかけてしまうに違いない。