不意にふわっとシオンの香水の香りに包まれた。
突然の行動に、握り締めていたマフラーがはらりと床に落ちる。


耳から伝わるシオンの鼓動はゆっくりと脈を刻んでいて、私はその心地良いリズムを頭の中で数えた。

「頼むから、あまり心配させるな。」

シオンは少し擦れた声でそう言った。


私の頭を両腕で抱きしめているから、その表情は分からないけれど、その声音は優しかった。

「今度から何かあったら、必ず電話しろ。」

「・・・うん。」

「それから、あの道は二度と通るな。」

「・・・わかった。」



それだけ言うと、シオンは私の身体をゆっくりと離した。

そして私の額に優しくキスをすると、直ぐに部屋の扉へと向かった。


「出掛けてくる。」


そう言って、一瞬私と視線を合わせたけれど、その視線はいつもと同じ、冷めた視線だった。