日向が学校へ行くようになってから、数日が経った。
この数日なにもない。
自分が見たことは、夢か幻だったんじゃないかと思ったりしてみる。
でも、あの口の歪みは見間違いなんかで片付けるには大きすぎる。
あの日、日向が記憶を戻した朝あの瞬の態度は気のせいなんかじゃなかったんだ。
瞬は茜と一緒に親に邪魔扱いされた挙句に捨てられた。
そのせいか他の子供たちよりも敏感にその人の空気みたいなものを感じる力が強かった。
簡単にいえば人見知りした結果、相手が自分とお姉ちゃんである茜を傷つける人かそうじゃないかを見極めていた。
その瞬が日向と出会いすぐさま大丈夫だと判断して、一緒に行動を共にするほど好きになっていた。
なのにあの朝、瞬は確かに拒絶した。
大好きなはずの日向を拒絶したんだ。
あの顔は恐怖だ。
瞬がここにきてから、ずっと見てきたんだ。
間違えるはずがない。
と、いうことは記憶を戻してから日向は日向ではなくなった。
いや、待てよ…帰って来てからは、いつもと変わらず瞬は日向へと駆け寄った。
何処だ?どこで日向は考え学んだんだ…?
それとも、初めから記憶をなくしてた間のことを覚えてた??
まさか、それはないだろう…相手は9歳の子供だ。
俺はただ、あの子が変わったのがなんなのかを知りたい。
それを隠している心の闇を救いたい。
知ったからといって、責め立てたりするのが目的ではない。
ただ助けたい。それだけだ。

「また!最近ボーッとしてること多いよ!」
朱里が俺の顔の前で手をヒラヒラとさせる。
「あぁごめんごめん。」
「日向くんが心配なんでしょ?」
朱里がそう言って隣に座った。
「わかるよ。私も今学校で何してるのかな?とか、なんか言われたりしてないかなぁ?とか考えるよ。でも考えても仕方がないし入学式で見た先生も優しい感じだったじゃん。だから信頼して送り出すしかないじゃん。」
そんなことわかってる。朱里の気持ちはわかってる。
でも、俺の不安とは違う。そのことは言えない。合わせて返事をするしかなかった。
「そうだな。家で心配してても駄目だよな。」
「そうそう!あっ瞬、起こしてきて。おやつの時間だから。」
そう言われて、お昼寝中の瞬を起こしに行く。


ドアを開けると小さな寝息を立てて寝ている瞬がいた。
膝をつき上半身を二段ベッドの下に入れるように瞬を揺り起こす。
小さい伸びをすると、瞬は起き上がった。
体をベッド側から出して柵に手かけ瞬に話掛ける。

「なぁ瞬…?日向は変わらないか?」

キョトンとした顔を向ける。

「ごめん、今の質問は忘れてくれ。さっおやつだから、ベッドから出ておいで。」
そう言って立ち上がる。
ドアへと歩き始める。
シャツの裾をグイッと引っ張られた。
二段ベッドの下から、柵を越える様に身を乗り出し瞬が俺を見上げる。


「まさにぃも、ひなたくんのこと、きづいたの?」