「よかったら、俺と付き合って欲しいんだけど」

逸らしていた視線をあたしに戻す彼の瞳が、なんだか苦手だと感じた。

不快感とか、そう言うわけじゃないけど。

「…ぁ」

何か言わなきゃって事だけを急かす脳内。
だけど上手い言葉が見つからないんだ。

みんなそうなんだろうか。
応えが決まっているーー告白、なんて。
こんなにも嬉しくて、心苦しいんだろうか。

わかんないや。

本当に、こんな経験なかったから。

だけど、どんなに考えたって、あたしの応えは決まってる。
だから、ちゃんと、言わなきゃ。

でも、

「…」

ある、下心。
ーー揺れる、下心。

あたしが今からするだろう応えは、彼にとっていいものなんかではない。
なのに、嫌わないでいて欲しいと思う。
寧ろ、好きでいて欲しいとすら思うから。

言葉を選んでる自分がいる。

これが、人間特有のよくなのか。
あたしだけのものなのか、それすらわかんないけど。

もちろん、申し訳ないって気持ちの方が優っているけど。

そう思うならフらなきゃいいって、
そう、単純じゃないんだ。

特に、あたしは。

「神代はさ、他に好きな奴がいる?」

沈黙に耐え兼ねたのか、桐谷くんが口を開いた。

「あっ、いない、…よ、」

言い終わって、しまった。ってそう思った。
好きな人がいるっていうのは、理由になるかもしれないのに。

誰かって聞かれたら、答えるのは難しいけど。

でも単純に、真剣な桐谷くんに嘘を吐きたくないとも思った。

「そっか」

「うん…」

どこか肩の荷を下ろしたような彼の様子に胸が痛んだ。

だったら、って言葉を紡がれる前に、慌てて口を開いた。

「あたし、あの…、誰かと付き合うとか、そういう経験全然なくて、自分に自信とかないから…その」

下心が見え隠れする台詞は、何だか言い訳みたいになってしまって。

桐谷くんの顔、見れない。

「そっか。…付き合うのとか、無理?」

うん、

ってそう、言うだけ。

「…」

「無理強いとかするつもり全然ないんだけど…って、俺ダセ…」

恥ずかしそうに視線を逸らす桐谷くん。

あたしは何も言えなかった。

「えっと、少し…とかでも考えてくれたら嬉しい」