溜息に近い、息を飲み込んだ。

さっき教室の周りを確認しておいたから、この状況がドッキリだとか、罰ゲームだとかそんなことはない、はず。

そんなことがないから、さらに虚しいのかもしれないけどーー。

嬉しい。
本当に、心の底から嬉しい。
彼だからとかそういう感情ではないけど、誰かに好かれているという事実が、不快な訳はない。

でもただ、

「えっと、…」

言葉に詰まるっていうのはこう言うことだ。
頭が回らない。

もちろん、好きだと言ってくれたことは嬉しい。
だけど、人には事情があるんだ。
色々と、あたしには女子、特有の。

こんな理由で断らなきゃいけない事実が、申し訳ないし、虚しい。

何で、どうして、
よりによってこの人。

桐谷絢斗(きりたにあやと)、学年の中でも結構な人気のある彼。

彼が格好いいとか、付き合いたいだとかそういう類の話をよく聞く。

仲がいいとかそんなレベルのお付き合いはしていないし、これからもしないはずだったこの人。

確かに、綺麗な顔立ちだし、話した記憶の中で嫌な人だという印象を受ける場面もなかった。

だけど、何で。
何であたしなんだろう。
特徴も、ましてや自慢できることもない。
平凡、寧ろ地味だとも捉えられるあたし。
''可愛い''とも''不細工''とも言われないあたしに。
何で、どうして。
こう思うのは失礼なのかもしれないけど、仕方のないことだとも思う。