相手はじっとこっちを見ていたけど、
なんだか恥ずかしくなって目を逸らす。
上履きのラインを見るとひとつ上の先輩のようだった。

そのまま靴箱に向かい、ローファーに履き替えて校舎を出る。

さっきの先輩、驚いた顔してたけどどっかで会った人だったかな…

思い当たる人もいないのでその人のことはすっかり忘れ、バスに乗って塾へと向かう。

塾での講座が終わり、自習室で復習をしてビルを出ると彼氏の直人が立っていた。
直人「おかえり。待ってたんだよ」
寒気がした。以前、2回直人にはぶたれた事がある。
そのときと同じ笑みを浮かべていた。

『今日会えないって言ったのに』

直人「塾終わってからならいいかなって思って。最近会えなかったからさ」

会えなかったのは都合をつけて避けていたからだ。
元々、直人のことは好きじゃなかった。
何度も告白され、半ば諦めて付き合ったから会いたいとも思わなかった。

『でも、バスなくなっちゃうからもう帰るよ』
直人の横を通り過ぎて駅へと向かうと腕を掴まれる。

直人「待ってよ。待ってたんだよ?」
強引に直人の方を向かされた。

『頼んでないよ。ほら帰ろう』
ぶっきらぼうに返すと上を向かされ、キスをされた。

何も感じない。キスなんて求めてない。
胸を押して拒む。

すると直人の目の色が変わり、
後ろのガラスへと突き飛ばされた。

『いった…』

直人「なんで拒むの?俺の事嫌い?」

『……』
この状態になると何を言っても無駄だ。

直人「好きっていってよ」
切ない顔をしながら言ってくる。
黙っていると顔をぶたれた。

その瞬間、ため息をつく。
『はぁ、別れよ。』
仏の顔は3度までと決めていた。
三回目に暴力を振るわれたら別れよう、と。
元々好きでもない直人と暴力を振るわれてまで付き合ってる価値が私にはなかった。

直人「奈々美…嫌だよ、好きだよ」

直人の言葉を無視し、駅へと向かいバスに乗った。