「ごめんね!待たせちゃったよね?」
あたしは口にくわえていた食パンを食べながら、階段を降りる。
「いや、別に待つのはいいけどよ。…飯食ってねぇの?」
「いふぁたへてふよ?」(今食べてるよ?)
口の中をモゴモゴさせながら食パンを見せる。
「喋るな!ちゃんと食ってから話せ」
「ふぁーい」(はーい)
黒崎 紘-Hiro Kurosaki-。
自己中で直ぐケンカになっちゃう乱暴者。
口は悪いけど、本当は優しい。
あたしの大事な幼馴染み。
背の高い紘をあたしは見上げながら話す。
隣で歩く紘は食パンを食べるあたしに呆れた顔で見てくる。
「お前、ここにマーガリン付いてる」
「えっ!?嘘ー、せっかくメイクしたのに…」
「化粧なんかどうでもいいだろ、早く食え」
女心を全然分かっていない紘は面倒くさそうに言う。
…メイクは女にとって大事なのに。
あたしは、やっとのことで食パンを食べ終わりティッシュで口を拭く。
「紘、取れた?」
「ん?…そこじゃねぇよ」
「えー…ここ?」
「…ったく、貸せよ」
そう言って、紘はあたしが持っていたティッシュを奪った。
そして、グイッと口の周りを拭われた。
…強引だな、相変わらず。
「ありがとう」
「そういうとこ、変わってねぇよな」
「えっ?そうかなぁ?」
「お前って、昔からよく口の周りに物付けるよな」
「わざとじゃないよ!」
「分かってるっつーの」
そう言うと、紘はハハッと笑った。
…もう、完全にバカにされた。
あたしと紘の家は隣同士。
だからいつも紘があたしの家の前で待っていてくれる。
そして、その先を歩いたところにもう1人の幼馴染み理乃の家がある。
また、その先を行ったところにもう1人の幼馴染み颯人の家がある。
あたしたちは、いつも4人一緒に登校している。