教室に入ってきた転校生の彼の顔は、とても暗くて…冷たくて…とても寂しそうだった。


五月の中旬。高校二年生の私は、いつもどおりの時間に起きて、いつもどうりに家を出て、いつもどうりに登校していた。

元気のいい挨拶が飛び交う中、私はいつもどおりの席に座って何度読んだか分からない文庫本を取り出して読み始める。

私の席は窓側の後ろから二番目。読書をするには快適な場所だと言えるだろう。

「おはよう、華菜!今日も暗いね!」

「おはよう、中河さん。今日も失礼ね」

元気のいい挨拶と失礼な事を言ってきたのは中河(なかがわ)鈴(すず)さん。一年の頃からよくしてくれる、私が堂々と友達と言い合える相手だ。

思った事を口に出してしまう人なので嘘をつかないから信頼してるけど、たまに心を突き刺すような事を言ってくる。

「ねぇ、知ってる?今日転校生が来るんだって」

「そう」

彼女は何かと顔が広いので色々な情報を教えてくれる。しかし、今回の転校生については興味が無いので二つ返事で返す。

「その人、まだ学校に来てないんだってさ。初日から遅刻だなんて凄くない?」

何が凄いのか私にはさっぱり分らなかった。しかし、その転校生に少し興味を持った。

「どんな人なのかしらね、初日から遅刻して来るやる気のないなんて」

「ねぇ、華菜さん。興味持つことはいい事だけど、少し口が悪いよ?」

若干引き気味に(というか少し引いてる)彼女は言うと、そのまま一時間目の数学の準備をしだす。

私はそのまま読書続行だ。この本は何度読んでも面白い。でもそろそろ飽きてきたから新しい本でも買おうか。そう考えているとチャイムがなって担任教師が入ってきた。

担任は転校生の事には一切触れずに、HRを始める。

担任が今日の予定を話してる時。ついに我慢ができなかったのか、一人の女子が手を挙げた。

「どうした、神谷?何か質問か?」

「あの…転校生の子は来ないんですか?」

神谷と呼ばれた少女は小動物のような小さい声で質問する。彼女は気の小さい子であまりこういう所で発言したりしない。

ちらりと彼女の後ろを見てみると数人の男女グループがクスクスと笑っている。

イジメか。そう思った矢先、グループの中の一人が私の視線に気付いて睨んでくる。

私は急いで視線を逸らして担任の言葉を待った。

「あぁ、彼は少し遅れて来るそうだ」

えぇ〜とクラス中から聞こえてくる。よほど楽しみだったのか男子までもガッカリしている。

その雰囲気の中、一時間目の数学が始まった。私は黒板に書かれた数式をノートに写していく。

それから二時間目三時間目と過ぎたが、転校生は現れなかった。


四時間目の科学の時だ。教室のドアがいきなり開いたと思ったら、気だるそうな男子が入って来た。

「おぉ、やっと来たか。早く自己紹介しなさい」

男子はチョークを取って黒板に文字を書くと、めんどくさそうに頭をかいた。

「えーっと。國崎(くにさき)優希(ゆうき)。よろしく」

それだけ言うと彼は空いてる席に着いて、眠り始める。そこは今日休みでいなかった私の隣の席だ。

「あ、あの〜…」

さすがの教師も困った表情になっている。生徒も何も言えずに固まっていた。

「まぁ、彼と仲良くしてやってくれ。それじゃあ続き始めるぞ」

そして教師は授業の続きを始めた。それでいいの!?と思ったがそれは皆が思っていそうだったので何も言わなかった。

それにしても私の隣で寝ている男子だ。なぜだか彼を見た時懐かしい感じがした。

一瞬彼と目が合った時、彼が悲しそうな、それでいて寂しそうな顔を見せたのは気のせいだろうか。

そんな考えを振り払うように私は授業のノートをとった。