俺様王子は子猫がお好き



「くるみはね、胸がトクトクするかな」



「え、トクトク??」



聞きなれない言葉に思わずちょっと笑ってしまう。



「その人と目が合ったり、姿を見れたり。
そんなちっちゃいことだけですんごく嬉しいんだ」



はぁ~トクトク、嬉しい…ねぇ…



感心して頷いてみるものの…



「うーん、わかんないよ」


まあこれが答えだよね。



そんなあたしを見て2人が笑う。



「まあ自分が経験しないとわかんないわよね」



「人によって感じ方も違うしね~。でもくるみ、きゅってなるのちょっとわかるな」



「あ、本当?私もトクトクってのわかるわよ」



やっぱり?!と盛り上がってる2人を見つつ、ウインナーをほおばる。


あんまこういう話しないせいかな…


2人がなんだかすごく大人に見えた。



あたしにもわかる時がくるのかな?


   ☆   ☆   




「長瀬くん、かー…」

夜。



お風呂から上がったあと自分のベッドにばふっと腰かけ、そばにある羊の抱き枕をぎゅっと抱きしめる。



お気に入りのマグカップで淹れたてのミルクティーを一口すする。

 
全然悪い人じゃなかった。


かっこよかったし、

モテるんだろうなってのは話しててわかったし…


なによりちょっと嬉しかった。


でも、気になるかって聞かれると…?

 

「んん~~…」



わかんないものはしょうがない。



あたしは考えるのをやめた。




かわりにまた、ミルクティーを飲みこむ。



お風呂上がりのミルクティーの時間はあたしの1日の楽しみでもある。



今日も乗り切った~!


明日も頑張るぞ!



って気になるんだよね。


「明日も楽しい1日にするぞ~!」


でも、このときのあたしはまだ知らなかった。



明日は楽しい日どころか、平和だったあたしの生活を大きく変えることになる、俺様王子がやってくる日だということを…




「今日、転入生くるらしーぜ」


「え、まじで!男子?女子?」


「しらない」


「どっちかなー?イケメンこないかな~?!」



いつにましても騒がしい朝の教室。


「へぇ~転入生くるんだ」



そう言いながらくるみがあたしの髪をいじる。



「どんな人かしらね」



くるみにピンを渡しながら綾乃ちゃんがそう返す。



「ってなにしてんのよお二人さん!!」


「あーもう!動かないで結菜ちゃん!」


全くもう…。



「ほら、できた!結菜ちゃんかーわいい~!お姫様みたい!」


「あらほんと。写真撮っていい?」



鏡を見てみると…
 

「うわ!くるみすごい!!」



編み込みがカチューシャみたいになってる!



「えへ。でも凝ってそーで超簡単なんだよ」


いやでもあたしにはできないよ!



「ありがと、くるみ」
 


ちょっと照れながらそう言ったときチャイムが鳴り、みんなが慌てて席に着きはじめる。



「SHR始めるぞ~」



先生とともに入ってきた転入生は…



『きゃあああ~~~!!!!!』



そんな女子の黄色い声とともに登場した。



「玄野龍くんだ」



先生に紹介される玄野くんはその声援を流すように堂々と立っている。



「やばいかっこよすぎ!!」



「モデル?!俳優?!」



すごい…



あたしならこんな騒がれると縮こまっちゃう。



慣れているのかな。



それもそのはず玄野くんは初対面のあたしですらほれぼれするような容姿をしていた。


まず目を引くのは、このかなりの身長。


これ、長瀬くんと同じかもう少し高いんじゃ…


でも長瀬くんと似ているのはそれだけだった。


むしろ長瀬くんとは正反対のタイプ。



明るめの茶髪はさらさらで、



ほどよく引き締まった線の細い身体。



そう、例えるならまさに…




「…王子様」




どこからともなくそんな声が聞こえてくるとともに、玄野くんとバチッと目が合った。
 

「さ、玄野。なにか一言…」


「見つけた…」



先生の言葉を無視して玄野くんが呟いた。



騒がしいのにその声は不思議とよく響き、一瞬にして教室が静まり返った。



「やっと会えた」



よくわからないその言葉にみんな首をかしげる中、玄野くんはあたしを見つめたまま
こちらへ歩いてきた。



え…これ、あたしのほうに向かってきてる…?



「く、玄野、SHR中だぞ。前に戻ってきなさい」


慌てている先生をまたもや無視して玄野くんはあたしの前で止まった。



そしてふっと笑いかけてきて…



「よろしくな、子猫ちゃん」



あたしの前髪をそっとかきわけちゅっ、と額にキスを落とした。



『きゃああーーーーーっ!!!』



クラス中が大騒ぎになる。



そりゃもう…もちろんあたしは…


「……っ!」


自分でもわかるくらい真っ赤になって石のように固まってしまった。



それを見た玄野くんはくすりと笑い、



「せんせ~俺、こいつの隣ね」



あたしの隣の席にどさりと荷物を置いた。



「うわっ…!」


自分の席に鞄を乱暴に置かれた隣の男子が
びっくりして体を引く。



「玄野、席は先生が決めるからとりあえず戻ってこい」


手招きしている先生を見て玄野くんは口の端を上げた。


「何?俺にさからうの?」