俺様王子は子猫がお好き


☆side 龍☆


結菜が何を考えているのか、まるでわからない。



いや、まず俺のことなんてどうとも思っていない。



その証拠に、自分なんて待たずに他の誰かを探せと言われた。



なのに、いきなり龍くんと呼んできたり。


話しかけてくる回数が増えたり。


視線を感じたり。


それに今日だって…


どうしてらしくもないことばかりするんだ。


そんなの、期待してしまう。



────俺は、もてあそばれているんだ。



「くそっ…」


結菜に振り回されている自分に嫌気がさす。


好きだからこそ、あんな結菜の態度には腹が立つんだよ…。

だが、あのとき結菜はなにを言おうとしたのだろう。



あの傷ついた顔は本当に演技なのだろうか。



絆創膏だらけの指は?



もしかして結菜は…本当に俺のこと……



いや。こうして期待させて俺の反応を楽しんでいるんだ。


だけど、優しい結菜がそんなことするのか…?



俺はふと止まった。


ひどいことを、した。


もしも、仮にだが俺の自惚れでなければ……



今頃結菜は、どうしてる…?



再び公園に足を速めた。


期待半分、不安半分で公園をのぞいた俺が見たのは…

「…ははっ」


乾いた笑いがもれた。



───夢で見た、光景だ。



このあと俺は言われるのだ。



長瀬からは結菜は自分のものだと、結菜からは自分は長瀬が好きなんだ、と……



ぶるっと体が震えた。



すぐさま2人に背を向ける。



俺がばかだった。



もういい。



もうたくさんだ。



もう、結菜なんて、嫌いになってしまいたい…。

☆side 結菜☆


重たい気分のままむかえた体育祭。


大好きな行事なのに、いまいちテンションが上がらない。



「なにそれ!ありえないよ玄野くん!」



くるみは顔を真っ赤にさせて怒ってくれた。


「そんなやつ今すぐ忘れたほうがいいよ!」



龍くんはもう学校へ来ないんじゃないかって思っていたけど、ところがちゃんと来ているんだよね。



あたしももう忘れたいよ。
でも、会ったら忘れられないんだ…



「でも今日は玄野くんなんて視界に入れず楽しみなさい!ストレス発散よっ」



綾乃ちゃんの言葉に、おーっ!とくるみがこぶしを上げる。



「ほらっ、結菜ちゃんも!」

促されて、


「お、おぉー!」


同じようにこぶしを上げた瞬間、ふらりとめまいがした。


「ゆ、結菜ちゃん?」


「ちょっと大丈夫?」



「だ、大丈夫ですへーきへーき!」



龍くんのことばっか考えてしまって夜、なかなか眠れないんだよね…



寝不足かなぁ。


しっかりしないと!



「おっしゃいくぜ赤連合~!!」


叫んで気合いを入れるあたしにくるみが手をたたく。


「それでこそ結菜ちゃんだよっ!」



そうだ。スウェーデンリレーだけじゃない。



あたしには、綱引き、棒引き、ムカデ競争、騎馬戦、クラスのリレーだって任されている。


よくこんな出る気になるわね…って綾乃ちゃんには呆れられたけど、行事なんて楽しまなきゃ損だよねっ!

それに、話し合いの結果、スウェーデンリレーであたしは、5走を任されることになった。



スウェーデンリレーの大きな特徴として、だんだん走る長さが増えていくということがある。



1走は、女子。
6走、つまりアンカーは男子。


この条件だけ満たせば、走順は自由に自分たちで決めることができる。


ただし、走る長さがちがうの。




1走から順に、50メートル、100メートル、200メートル、300メートル、400メートル、800メートル走り、


5走のあたしは400メートル、つまりトラック1周分走らなきゃならない。



当然、そのあたりが1番目立つんだけど、3年の先輩たちは部活を引退してもう日が経つので、あたしたち後輩にその役目をゆずってくれたんだ。



めちゃくちゃ気合い、はいっております笠原結菜!



400メートルなんて長い距離、なにが起きるかわからない。



逆転することも、されることも。



少しでも差を引き離してバトンをアンカーに渡さなきゃならない大事な役目。



うおおおテンション上がってきたぁぁあ!

「つぎは~玉入れです。ムカデ競争に出場する選手は、入場門で待機してください!」


ゴゴゴゴと燃えていると、アナウンスがかかった。



「あ、招集いかなきゃ!いってきまっ!」



「結菜ちゃん頑張れ!」



「1位ね!」



でもまずは、ムカデ競争!
よっしゃあ~!ちょいと暴れてきますか!


   ☆   ☆


結果は見事、あたしたち1組が1位!


赤連合に大きな得点が入って、他連合に点差をつけた。



「やったねーっ!!」


みんなできゃーきゃー喜んでいると、くるみが走ってやってきた。



「みんな!次、綱引きだよっ」



「あぁ!ほんとだ、いかなきゃ!」



このあとの綱引きの次はすぐに騎馬戦が待っている。



「結菜ちゃん忙しいねー今日!」


「まーあね!」


   ☆   ☆


綱引きは3年生が強さを見せて、結局4位に終わり、赤連合は全体2位に落ちてしまった。


次の騎馬戦で挽回しなきゃ…!

身長や体重のことを考えると、上に乗る人は、小柄なくるみとなった。



あたしは下の騎馬だ。



「絶対1位とるぞっ!」


『おーっ!!』



みんなで円陣を組んで気合い注入完了!



「では、位置についてください」



絶対、1位になって赤連合の点数をあげてみせる。



パン!



ピストルの合図とともに、あたしたちは動き始めた。



「……っ」


その瞬間、またふらりとめまいがする。

「結菜!いける?!」


異変に気づいたひとりの友達が声をかけてくれた。


「ごめんへーき!」


何してんだろあたし。



しっかりしなきゃ。



「あ、あの子狙う!がら空きだ!」


くるみの指示に従って敵の後ろに回り込んだとき…



あ、龍くんだ……



トラックの外にあるすぐそばのテントで、龍くんがぼんやりと座っていた。


その姿にぎゅっと胸が痛くなる。



「きゃー!くるみ!!」



そんな声が聞こえた瞬間…


「結菜!!」


え?