「かいちょー!」

当時私は児童会…中学生以上で言う生徒会の副会長だった。

その頃は私も素直だったんだと思う。
いつも心からの笑顔だった気がする。

それも会長こと坂本貴紀(さかもと たかのり)君のおかげだった。

「どうした琴葉。いつも以上に元気じゃないか?」

私に向かって彼はにこりと微笑んでくれた。

優しくて、頼りになる貴紀君は
私の初恋の相手だった。

1つ上の会長が卒業してしまうその前に彼に告白したかった…が
私は自分で思っていた以上に意気地無しで言えなかった。

しかし、卒業式の時あの人がくれた手紙には

『待ってるから。』

あの人なりの告白。

私は飛び上がるほど嬉しかったのを覚えている。


なのに…

「俺この間の祭りで貴紀君と女の子が歩いてるの見ちゃった。」

六年生の夏、祭りがあっちこっちで始まっていた頃
同じクラスの男の子が言った。

誰かに嘘だと言って欲しかった。
でも、その姿を見た人は少なくなかった。

私は次の日、腰まであった髪をばっさり切って学校に行った。
皆、「可愛い」とか「イメチェン?」とか言ってたけど
私は複雑だった。

その日の昼休み

「琴葉。ちょっといい?」

「啓輔?」

同じクラスだった本条啓輔(ほんじょう けいすけ)が話し掛けてきた。

いつもは男の子らしからぬ容姿でニコニコと笑っていたが
その時は凄く真面目な表情をしていた。

隣の空き教室に連れて行かれた私は
啓輔に言われたとおりに椅子に腰掛けた。

一呼吸おいて啓輔は私の目を見てはっきり言った。

「貴紀君の事か」

「え?」

突然の問いかけに私は固まった。

「お前の様子がおかしいのは貴紀君の噂が原因か?」

その日、私の様子はそんなにおかしかったのだろうか。

「別に…私様子おかしくないでしょ?」

急ごしらえの笑顔で啓輔を騙すことが出来なかった。
一瞬悲しげな顔をした啓輔はぽつりと言葉を発した。

「泣いていいんだよ」

その優しい言葉と口調に思わず目の奥が熱くなった。

昼休みが終わっても泣いていた私のそばに
啓輔は黙って座ってくれていた。

そのときだけ、いつも弟扱いされている啓輔が
とてもカッコよく見えた。