これはみんなに渡したものと

何も変わらない中身、包装。

だけど、包んでるときの気持ちは

他のどのマフィンとも全然違う。


ずるいって、わかってる。

わかってるよ。

でも……私、どうしても素直に渡せる気がしないんだ。


だから、“義理チョコ”として渡すの。

私の好きな人、

逢坂佳人-けいと-に。


「……華!、……郁華さんー?」

後ろから名前を呼ばれてハッとすると

今は私の隣のクラスの子で

昔から幼馴染の瑠維-るい-の姿が。


「るっ、瑠維!?」

いきなり現れた彼女にびっくりしていると、

はい、と差し出されたお菓子。


ああ、そっか、

私にも渡しに来てくれたのか。


「私もあるよー!」

そういってマフィンを差し出すと

それをじとーっと見つめる瑠維。


「……へ?」

不思議に思うと、

「“彼”の分は?」

こっそり耳元でそう言った。


唯一私の気持ちを知っている瑠維。


「あ、あああげるよ!!こ、これからよ!」

そう、先月の末に

瑠維にバレンタインは逢坂にチョコをあげたいと

勢いに任せていってしまったこと、

今でもちょびっと後悔してるんだ。