「朝の、言葉……」
不思議そうに首を傾けた逢坂を見て、
やっぱり彼にとっては記憶にとどめるも
値しない言葉だったんだとわかり、
ついには涙が流れ出した。
「え、もしかして――」
そう言いかけた逢坂だったけど、
私の頬に触れていた手のひらに
きっと冷たさでも感じたんだろうか、
びっくりした顔で
私を見つめだした。
ここまでなってしまえば、
逢坂には悪いけど、
私もう何にでもなれ、かな。
「わ、私っ、勝手に期待して……!
言葉、誤解してっっ」
素直になったつもりで
自分の思ってたことを口にする。
「ごめんね、なんか勝手に――」
そう謝ってる途中だった、
「え、江田!ちょっと待って!!
お前何に誤解してるって??」
逢坂は困った顔で私にそう尋ねた。
「……朝っ、
わ、私が『本命あげても――』って、
逢坂に言ったとき、に……
逢坂、が、『好きな子にもらったら
死ぬほど嬉しい』って言ったやつ、
あれ勝手に私のことだと思って、
勘ちが――――っっ!?」
私が言葉を言い終わる前に
目の前で滲んで見えていたはずの
逢坂の顔が急に見えなくなって、
かわりに見えるのは逢坂の
いつもほどよくゆるんだネクタイの結び目。
「……お前さー、
やっとわかってくれたのかよ。
全く勘違いじゃねえし、それ」
耳元に聞こえるのは
後ろから初めて声をかけられたその時とは違う
甘く低い逢坂の声。