「内藤さん、1番にお入りください」
夢子は未だ状況が飲み込めずにいた。
遡ること3時間前。

夢子は、信代と一緒に近くの病院に来ていた。
小さな病院だか近所で評判の内科だ。

今日は空いているのか夢子の他に2人しかおらず、割とすぐに通してもらえた。

「内藤さんの体調不良は内科的なものではない可能性があります」

夢子の代わりに信代が答えた。
「どういうことでしょうか?」

しばらくパソコンの画面を見つめた後医師はアゴに手を添えて言った。

「精神的なことで起こる病気の可能性が高いです。若い女性に多い症状で、聞いたことがあるかもしれませんが...
摂食障害である可能性があります。」

「摂食障害...」
夢子は他人事の様にポツリと呟いた。

「このような内科では観ることが出来ないので、大きな病院を紹介しますね。」

先生は淡々と説明していく。
夢子の表情は変わらないが、信子はみるみるうちに、悲しい表情へと変えていった。

「この病院なら、精神科に特化していますので、紹介状をお書きします。」

そう言われ東京の大きな病院まで来ていた。
そしてそこで母と待ち合わせをし一緒に病院へ行くことになったのだ。

「夢子、会社を辞めたのなら、教えてくれなきゃダメでしょ?」

待合室で夢子の母のゆかりが言った。

夢子は黙ってゆかりの話を聞いていた。

「黙ってたら話が進まないわ...もう25なんだからしっかりしてね」

夢子はただ黙って遠くを見つめていた。

「連絡が来ていきなりこの病院に来てくれなんて言われるからビックリしたわよ」
まだまだ言いたいことがあるのか口を開こうとしたゆかりを信代は制した。

「ゆかり、今はその話をする時ではないよ、病院の先生の話をしっかり聞いてから、今後の事を決めればいい、親がそんなに焦るもんじゃないよ」

信代が静かにそう言うと、まだ何が言いたそうなゆかりだったか、しぶしぶ黙った。

そうこうしていると呼ばれて今に至る。

そして夢子と信代、ゆかりの3人は扉に大きく1と書かれた部屋のなかへ足を踏み入れた。