「何回同じことするの?」
「内藤さんて仕事出来ないよね?」
「やる気が無いならやめて欲しいよね?」
「何でそんな簡単な事も分からないの?」
「こんな忙しい時に...ミスしないでくれるかな?」

今まで言われた言葉達が迫ってくる。
暗闇の中を走っても走っても、ゴールは見えない。

何かを掴もうと必死に近くを探ってみても、見えるのは皆の冷たい視線。

子供の頃の友人が周りを囲み逃げ道を無くす。
「そんなことも分からないのかよ??」
周りがクスクス笑っている。

こんな私じゃダメなの?
一生懸命やればいいわけじゃないの?


ーなんで、誰も解ってくれないの?ー






「おい!!」
力強い腕で揺すり起こされ、夢子はハッとした。

「...夢か」

「...どんな夢みてたんだよ?うなされてたけど」

「いや...」

「別にどうでもいいけど、信代さんが読んでる」

「はぁ」
気の無い夢子の返事を聞き、直哉は
「着いてきて...」
と言い足早に歩き始めた

「え?...ちょっと」

慌てて立つ夢子だが長身で足の長い直哉はスタスタと早々と歩いてしまう。

なんとか着いて行くと1つの部屋の前で止まった。

青い小鳥は小さな建物で、部屋数は6個。
信代と夢子の祖父、それから直哉の3人で切り盛りしている、小さな民宿だ。

部屋の大きさは全て一緒で、畳の部屋だ。
大きな大浴場と祖父が腕を振るう料理が自慢である。

新しいお客が増えるというより、来ていたお客が、安さと料理の美味しさ、そして信代の朗らかな笑顔を思い出し、来るという形が多かった。

この宿はリピーターが再び足を運んでくれることで、切り盛りできていた。
その事を常に信代は感謝している。

そんな信代や夢子の祖父の事をとても信頼している直哉は、夢子の気の無い態度がとても癇に障った。

(信代さんがあんなに心配してるのに...何が気に入らないんだ)

「じゃあ、俺行くから...」
嵐のように去っていった直哉の方を暫く見つめていたが、ふと我に帰り、部屋の扉を開けた。