民宿の一件隣の平屋が祖父母の家である。
祖母はそこに夢子を連れてきた。
「直哉(なおや)くん、小鳥に戻ってくれるかい?」
直哉くんとは黒髪の男性の事である。
ペコっと軽く会釈をして、民宿『青い小鳥』へ戻っていった。

「あの子は藤 直哉くん、ここで住み込みの仕事をしているんだ」

「へぇー」
力の無い声で何処か一点を見つめて答える夢子。

「夢子ちゃん、何かあったのかい?
元気が無いように見えるけど...」

当てもなく来た夢子だったが、答える元気が無かった。

ふと祖母である信代の顔が浮かんで、会いたくなった。

信代は心配そうな表情で夢子を見つめるが、夢子は涙を流しながら、遠くを見つめていた。

「...何があったか分からないけど、いつまでも泣いていたら、かわいい顔が台無しだよ、いつもの笑顔のかわいい夢子ちゃんが素敵だよ」

「笑顔でいたって、どれだけ頑張ったって、良いことなんてないから...」

せっかく褒めてもらえたのに、可愛げのない答えをした自分に、夢子は嫌気がさす。

「そうかい...
夢子ちゃん今日は泊まっていきなさいよ、明日は仕事かい?」

夢子は首を縦に振るだけだった。

「今日はあったかいお風呂に浸かって、美味しいご飯を食べて寝るのが一番だね」

そう言って信代は立ち上がる。
「さてとそうと決まれば用意しなくちゃねぇ」
「夢子ちゃん、おばあちゃんは用意してくるからこの家で適当に寛いでいてくれるかい?」
そう言うと青い小鳥へ戻って行った。