電車に揺られること2時半...。
迷いながらもある場所に着いた。
神奈川県、江ノ島。
(ここは確か、おばあちゃんの民宿があったはずだ)
子供の頃母と何度か訪れた江ノ島の民宿を想いだし、行ってみることにしたのだ。
「おばあちゃんどうしてるかな?」
記憶の中のおばあちゃんはとても優しく穏やかな人だ。
誰かに対して怒ることは見たことがない。
夢子も優しく接して貰えたことを覚えている。
そして、頑固一徹そのものの、おじいちゃん。
大きなクシャミと怒鳴り声が鮮明に思い出される。
「よく怒られて泣いていたっけな」

「はぁー、あの頃に戻りたいな」

あれこれ考えているうちに、ようやく祖父母の民宿に着いた。

しかし、中々声が掛けられないでいた。
(中々、勇気がでない...)

オロオロしていると突然扉が開いた。

出てきたのは長身で猫目の男性。
前髪が長くサラサラの黒髪で、目にかかって邪魔じゃないのかな?と夢子は思った。

「何か御用でしょうか?」

低い声が響く。

「あっ...おばあちゃんに会いに!!」

いきなりおばあちゃんに会いにと言い出す夢子に、黒髪の男性は怪訝な表情で見つめた。

「...お名前は?」

「内藤夢子です!!」
場違いなほど大きな声で答える夢子に男性は小さな声で「少々お待ちください」と言って店の奥に入っていた。

「ふぅー!!」
緊張からか、大きなため息が出た。

少ししてからパタパタと足音が聞こえたきた。

「夢子ちゃん!よくきたねぇ」
久しぶりに会った祖母に、夢子は変わっていないなと感じ緊張が解けた。

笑うと三日月型になり目尻にはシワができる。
夢子の好きな笑顔だった。

でも、夢子は笑顔で返事をする元気は無かった。

「いきなり来ちゃってごめんなさい」

夢子の祖母は今にも泣き出しそうな表情の夢子を見て
「さぁさ、そんなところに突っ立てないで中にお入り、久しぶりに来たんだから、ゆっくり顔を見せてね」

久しぶりに会った祖母はやっぱり優しく、夢子はいつの間にか涙が溢れた。

「...なにかあったのかい?
あったかいお茶でも飲んで温まろう。」
夢子の祖母は優しく夢子の背中を押した。
その一部始終を先程の黒髪の男性は黙って見ていた。