このマンションは2LDK。2部屋あるうちの片方は洋室、もう片方は和室と、よくある造りをしている。

 慌ただしく入ったのは「奥の部屋」。和室のほうだ。机とスケッチブックと鉛筆、消しゴム、水彩絵具が置いてある。中学の頃からやめられない、趣味で溢れた部屋だ。


 「絵」に憑かれてからは、一度浮かんだ風景を描き終えるまでは他のことに目がいかなかった。受験のときも直そう、直そう、と考えてばかりだった。
 社会人になるころにはそんな自分を受け入れていたが、仕事もあるためにずいぶん苦労している。今だってそうだ。
 先ほど浮かんだ、あの光景が、頭の中にはっきりと浮かび上がって、それを描きたくて描きたくて描きたくて仕方ない。


 ここへ入るのは久しぶりだった。最近は仕事が忙しく、こんなことをしている余裕がなかったのだ。

(久しぶりに、いいものが描けそうだ)

 たまには散歩もいいものだと、私は鉛筆を握った。